どの職種についても言える事ですが、その分野に詳しい人や、その業種の人にとってはごく普通の事だと思っていても、それ以外の人から見ると「どうして?」と思う事柄というのがあります。
お花の世界でも同じです。
お花屋さんにとっては「それはちょっと難しいんじゃない?」とか、「出来なくはないけどチョット変だよ。」というご注文をお客様からされることがあります。
どうしてその注文が難しいのか?
どうしてその注文をされるとお花屋さんはちょっと困ってしまうのか?
今回はお花屋さんで働いていた時に実際にあった少し困ったご注文について書いていきたいと思います。
「つぼみのお花だけで花束を作ってください。」というご注文
ご用途は様々ですが、花束のご注文の際に、「つぼみのお花だけ花束を作ってください。」というご指定をされることがありました。
おそらくお相手の方に、少しでも長くお花を楽しんでいただきたい、というお気持ちからだと思います。
もちろん技術的にはつぼみだけでも花束を作る事は出来ますが、お花屋さんとしてはあまり作りたくはありません。
なぜでしょうか?
確かに、つぼみの美しいお花もあります。
これはトルコキキョウです。
トルコキキョウのつぼみはとても表情が豊かなので、私も大好きです。
トルコキキョウは、1本の茎に複数のお花を付けています。
根元に近い側のお花から順に咲いてくるので、お花屋さんに到着したトルコキキョウは、下の方のお花は咲いていて先端の方のお花はまだつぼみの状態です。
上の写真のトルコキキョウは、先端のお花はがつぼみといってもかなりふっくらしてきていますが、もっと固い状態の時は閉じた傘の様なキュッとしぼったような形をしています。
これは、ブライダルのテーブル装花ですが、中央より右手の咲きの細いお花(ブルーの円で囲んであるお花)が、トルコキキョウのお花のつぼみです。
もうすぐ咲きそうなつぼみには『これから咲く』という予感のような動きがあり、固いつぼみには軽やかさや動きがあり、どちらのつぼみも花束やアレンジメントの中でメリハリをつける存在になります。
ただ、これは咲いている状態の花の華やかさがあるから、そのコントラストとしてつぼみも表情豊かに面白く見えるのです。
トルコキキョウは1本に大きく咲いているお花とつぼみのお花が交じっているので、実際にはトルコキキョウのつぼみだけを使った花束は作れませんが、もしつぼみだけで作ったとしても、華やかさもないでしょうし、ボリュームも全く出ません。
バラについても同じことが言えます。
1本の茎にお花が1輪付いているいわゆる普通のバラは、トルコキキョウほど完全なつぼみの状態ではありませんが、「まだやや固いかな?」という咲き具合の状態のお花を入荷することがあります。
もちろんこの状態で花束を作ったからといって美しくないわけではありません。
しかし、ボリュームは出ず、発色も不十分です。
綺麗に咲いている状態のお花で作った花束と比較すると、華やかさは極端に少ないです。
ユリやシャクヤクの場合はもっと顕著です。
ユリやシャクヤクは、固めのつぼみで入荷することが多いです。
ユリは1本の茎に複数のお花を咲かせます。
写真の下の方の方の、先の細い筒状の形のものが、ユリのつぼみです。
つぼみは細長いですが、咲くとお花は大人の掌ほどの大きさがあります。
花束でユリを使用する時は、写真の様に根元に近い方の1輪もしくは2輪が咲いているという状態で使用すると、ボリューム感もあり華やかです。
もしこの花束のユリのお花がすべてつぼみだとしたら、ボリュームも出ず華やかさは半減します。
切り花のシャクヤクは1本の茎にお花は1輪です。
中央付近と右斜め上の大きなひらひらとした花びらのお花がシャクヤクです。
咲いているシャクヤクは大人のこぶし大かそれ以上の大きさですが、つぼみの時はピンポン玉サイズしかありませんし、つぼみは茎と同じような色をしています。
これは、切り花ではなく地植えのシャクヤクですが、つぼみと咲いたお花とでは、こんなに大きさに差があります。
もし上の花束を、つぼみのシャクヤクで作ったとしても華やかにはなりません。
シャクヤクの場合は、ご自宅に飾るという目的ならば、少し咲いているもの・ほころびかけているもの・つぼみのものを混ぜて活けても綺麗です。
しかし、花束に使用するならやはり大きくしている方が美しいです。
プレゼントしたお花がお相手のお家で少しでも長く飾っていただきたいという気持ちは当然ですが、渡す時の華やかさを欠いてしまうと意味のないものになってしまいます。
ですから、「つぼみのお花だけで花束を作ってください。」というご注文をされると、技術的に作れないのではなく、作ったとしてもあまり美しくないという点で、少し困ってしまいます。
「日持ちのいいお花で」というご注文
上に書きました「つぼみのお花だけで花束を作ってください。」というご注文も、プレゼントしたお花が長持ちして欲しいというお気持ちからだと思うのですが、同じような心理からだと思われるご注文が、「日持ちのいいお花で花束(またはアレンジメント)を作ってください。」というご注文です。
「日持ちのいいお花で。」というご注文は、お花屋さんとして何となく悲しい気持ちになってしまいます。
お花はその種類によって日持ちのするお花・そうでないお花があるのは事実です。
ただ、「すぐに傷むお花で花束を作ってやろう。」なんて思うお花屋さんはいません。
「美味しくない料理を食べさせてやろう。」なんて思いながら料理する料理人がいないのと同じです。
ですから、「日持ちのいいお花で」というお花の指定はお花屋さんとしては、少し悲しい気持ちにさせられてしまいます。
「どのようなお花で花束をつくりましょうか?」とお聞きした時に、たとえお花の名前が分からなかったとしても、お花屋さんに置いてあるお花の中でお客様が綺麗だなと思ったお花を教えていただいた方が、「日持ちのいいお花で。」と言われるよりも、お花屋さんとしては嬉しいですし、花束を作る気合も入ります。
「葉っぱは入れないで。」というご注文
例えば、「3000円の予算で花束を。」というご注文があって、お花をピックアップしていてグリーン(葉っぱ)を入れようとしたときに、言われるのが、このご注文です。
「同じ予算なら、葉っぱを入れるよりも、1本でも多くお花を入れた方が、豪華できれいだ。」というお気持ちからだと思います。
もちろんお花が多く入っていると華やかできれいです。
ただ、葉っぱは、『かさを出す』ためだけの『おまけ』ではないのです。
例えばこの花束の場合。
中央後方に、ドラセナという黄緑色の大きめの葉っぱが入っています。
その、鮮やかでフレッシュな葉っぱの色が、お花の色を引き立て、更に春のお花の生き生きとしたみずみずしさをより強調しています。
もちろん、もしこのドラセナの葉っぱがなかったとしても、花束が美しくないとまでは言いません。
しかし、ここに葉っぱがあるおかげでお花の輪郭もより美しく見えていますので、この花束の中で葉っぱはとても大事な役割を果たしています。
ガーベラやスプレーバラ(ミニバラ)などがギューッとつまったように見えるこの花束の場合も、わずかに見えるグリーンがとても効いています。
ほぼ同色のお花を、平面的にのっぺりと見せずに色の美しさを引き出しているのはグリーンの力です。
もちろんこの花束の場合も、グリーンが入っていなくても成り立ちます。
しかし、グリーンを入れる事で、よりお花の色や形の違いをくっきりとさせています。
時には、グリーンを間に挟まずにお花だけをまとめる事もあります。
典型的なのは、お誕生日の数と同じ本数のバラで花束を作る時です。
この場合は、あえて何もグリーンを入れずにお花のみをぎゅっと束ねた方が、インパクトのある目的の絞られたお花に仕上がります。
葉っぱを入れる入れないの判断は絶対的なものではありませんが、葉っぱ(グリーン)は『おまけ』ではなくお花の1つだと思ってくださいね。
まとめ
今回は、お花屋さんで働いていた時に「ちょっと難しいご注文だなぁ。」と思ったり、ちょっと困ってしまったご注文についてまとめてみました。
その他には、『青いお花のご注文』もお花屋さんにとって少し難しいご注文の代表的なものです。
これは少し長いのでこちらに別でまとめてあります。
他にもお花を買う時に役立つ情報はこちら⇩⇩⇩⇩⇩